DX時代の経営戦略立案で留意すべきポイント
新型コロナウィルス感染拡大や少子高齢化に伴う慢性的な人手不足を機に、既存の働き方や組織のあり方を見直す企業は増加しました。働き方改革の一環としてテレワークを導入する企業は急増し、それに伴う業務のデジタル化も進みつつあります。
しかし、自社で取組んでいるデジタル化は、企業全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する方向に向かっていると自信を持って言えるでしょうか。「紙と判子の廃止」や「オンプレからクラウドへの移行」「Web会議システムを使用したリモート会議の導入」がDXだと思い込んでいませんか。
本連載では、ハートコアがプロセスマイニングやタスクマイニングを活用して日本企業のDXを支援してきた経験を基に、DXを推進するうえで押さえるべき要点を紹介します。DX推進のボトルネックとなる課題とは何かを詳らかにし、その課題を解決してDX推進を実現するアプローチを解説していきます。第1回目は経営戦略立案におけるDXの重要性について説明しましょう。
もくじ
結果から学ぶ時代→データから推測する時代へ
そもそもDXとはどのようなことを指すのでしょうか。経済産業省が2019年7月にまとめた「デジタル経営改革のための評価指標」では、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
2021年9月のデジタル庁発足にも見られるように、近年、日本政府はDXを推進してきました。しかし、帝国データバンクが2022年1月に公開した「DX推進に関する企業の意識調査」によると、DXを理解して取組んでいる企業は7社に1社に留まっており、半数の企業で、人材やスキル・ノウハウの不足がDX推進の課題になっているといいます。
実際、「わが社もDXを推進せよ」と号令をかけている経営者も、「DXの概念は何となく知っているが、それが今までのIT活用と何が違うのか」と疑問を持っているのではないでしょうか。現場でDX推進の指揮を執る責任者も、「どうしたらDXを推進できるのか」と聞かれて明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。
既存のIT戦略とこれからのDX戦略が決定的に違うポイントは、「これまでのIT戦略は『結果データの活用』、これからのDX戦略は『原因データの活用』である」ことです。今までは「結果から学んで次のアクションを起こす時代」でした。今後は「データで推測しながらアクションを起こす時代」になるのです。
DX推進を“後押し”する6つのプレッシャー
DXを推進するうえで最も重要なのは経営戦略の立案です。企業が作成する中期経営計画では経営課題を明確化することが必須ですが、ハートコアが考えるDX実現で取組むべき経営課題は、以下の2つがあると考えます。
1. デジタル戦略(DX戦略の明確化
業務プロセスの改善・把握、社内のデジタルデータの利用、第3のデジタルプラットフォームの構築・運用、DXによる新規売上など
2.組織戦略(DX組織・役割の明確化)
DX部門の位置づけ・権限・役割など
なぜ、これら2つが経営課題に挙げられるかといえば、それは、社内外からのプレッシャー(圧)があるからです。
現代の社会構造では、企業は以下の6つプレッシャーを社内外から受けています。
3.労働規制と社員の再教育
日本の雇用・労働規制は年々変化しています。人材獲得の観点からも、企業は従業員一人一人のワークライフバランスが達成できるよう、組織体制や雇用労働制度の見直しが求められています。
さらに従業員の「ITリテラシー格差」にも留意する必要があります。デジタルネイティブと言われる20代から30代と、FAXや電話に馴染みがある(あった)40代後半から60代の従業員ではデジタル活用にギャップがあり、それがDX推進の壁になっている企業も少なくありません。熟年社員に対するITリテラシー向上教育も、企業にとって課題となっています。
4.技術革新
技術革新による市場変化の潮流をいち早く捉え、自社の市場戦略に活かして競争力を強化するためには、市場や競合他社の情報を素早くかつ正確に入手し、分析する仕組みが必要です。
5.競合会社の動向
技術革新による市場変化の潮流をいち早く捉え、自社の市場戦略に活かして競争力を強化するためには、市場や競合他社の情報を素早くかつ正確に入手し、分析する仕組みが必要です。
6.顧客満足度
製品サービス力・顧客動向・マーケティング・営業手法(インサイドセールス・MA・ルートセールス)といった顧客接点への戦略は大きく変化しています。こうした状況においては、顧客満足度こそがいちばんの経営戦略指数となります。今後は急速に変化する顧客接点に対し、スピード感を持ってどのような戦略を講じるのかを決断することが、企業成長の根幹になると言っても過言ではないでしょう。
これら6つのプレッシャーにより、デジタル戦略(DX戦略の明確化)と組織戦略(DX組織・役割の明確化)は中期経営計画の“核”に位置づける必要があるのです。
DX推進を阻む課題とその解決アプローチ
では、「デジタル戦略」を推進するにはどのようなアプローチが必要でしょうか。
1つ理解していただきたいのは、「デジタル戦略には『守りのDX』と『攻めのDX』の両輪が不可欠である」ということです。
「守りのDX」とは、社内体制効率化の観点から推進するDXを指します。中心となる取組み内容は「業務プロセス簡素化」「電子化・ペーパレス化」「タスク効率化」「データガバナンス」などです。
一方、「攻めのDX」とは、新規ビジネス創出による売上拡大を指します。これには既存顧客の満足度を向上させたり、既存ビジネスを拡大したりすることも含まれます。特に古いシステムの刷新などは、大規模な投資を必要とする場合があります。こうしたケースではローコードでアジャイル開発を中心としたシステムの再構築計画を立案するなどの工夫が求められます。そのうえでスピードとコストのバランスを取りながら、今後のビジネス環境の変化に柔軟に適応できるようなシステムにすることがカギになります。
また、「守りのDX」で列挙した業務効率化の取組みだけではなく、全社的な業務プロセスのデジタル化による全体最適化も「攻めのDX」と言えるでしょう。なぜなら、全体最適化を目的とした業務プロセスのデジタル化は、大規模投資や抜本的な業務の見直し、さらに部門横断的なデータ共有・利用が不可欠であり、経営層のイニシアチブがなければ不可能だからです。データ利用頻度を高め、管理職の意思決定のスピードを上げることも「攻めのDX」なのです。
では「守りのDX」と「攻めのDX」を実現するためには、何が必要なのでしょうか。次回は「守りのDX」と「攻めのDX」を実現する必須要件を考察するとともに、デジタル戦略の具体的なアプローチを紹介しましょう。
第2回は...「デジタル戦略を支えるデータ基盤構築のアプローチ」につづく