デジタル戦略を支えるデータ基盤構築のアプローチ
第1回は...「DX時代の経営戦略立案で留意すべきポイント 」をお送りしました。
プロセスマイニングを通じて日本企業のDXを支援しているハートコアが、DX実現のアプローチを解説する本連載。2回目はデジタル戦略に必須となるデータ基盤構築までの“地ならし方法”について紹介します。
もくじ
「守りのDX」と「攻めのDX」に必要な3つの必須要
前回、デジタル戦略立案には「守りのDX」と「攻めのDX」の両方の観点が必要であることを説明しました。「守りのDX」と「攻めのDX」は、以下のように分類されます。
守りのDX……社内体制と業務の効率化を実現する「現場からの改善」
攻めのDX……新規ビジネス創出による売上拡大。全体最適化を目的とした業務プロセスのデジタル化を実現する「経営層からの改革」
「守りのDX」と「攻めのDX」を実現するためには、以下の3つの必須要件があります。
1.セキュリティを含めたインフラ管理(安全性)の観点
「データの構造化・最適化・利便性」 「セキュリティの機密性・完全性・可用性」
(データ運用インフラ環境・ITツール)
2. データガバナンスの観点
「リスクコンプライアンス」 「データ原則規約」
(データガバナンスによる原則規約・リスクコンプライアンス)
3. 業務改善に必要なアプリの選定運用管理・教育の観点
「データ利活用」 「業務プロセスモニタリング」「アプリ導入支援」
(可視化ツールなど)
これら3つはDXのグランドデザイン(全体構想)を描くうえで非常に重要です。長期的な視点で持続可能なDXを実現するにはビジネス変化だけでなく、企業を取り巻く社会環境の変化に柔軟に対応できるITインフラを構築しなければなりません。また、DXを経営戦略として位置づけ、プライバシー(データ保護)やガバナンス、リスクコンプライアンスを徹底することも必須です。
さらに、データ品質を担保して情報を管理するためには、内部統制システムを整備しなければなりません。その際に重要になるのが、業務の流れを把握する「タスクマイニング」と「プロセスマイニング」です。ビジネス変化に対応した迅速な事業戦略立案をするためには、業務全体のプロセスとタスクを可視化して把握する必要があります。これらを実現するためにはデータ基盤の構築が不可欠です。
データドリブンマネジメントを実現するデータ基盤のあり方
ではデータ基盤を構築するうえでは、どのような観点が必要なのかを見ていきましょう。デジタル戦略を支える「データ基盤」の構成は、「データガバナンス」と「データマネジメント」の2つの観点があります。/p>
さらに「データマネジメント」には「データ活用ライフサイクル」と「インフラ管理」の両軸があります。
図の上段にあるデータガバナンスとは、いわば「会社の規約」です。重要目標達成指標(KGI)の設定や会社としての原則策定、セキュリティポリシーやプライバシーガバナンスといった「顧客やパートナーに対して自社がどのような経営方針を執るのか」を示すものです。
一方、下段のデータマネジメントは、DXを推進するうえで留意すべきデータ関連の事柄をまとめたものです。データドリブンマネジメントを実施するためには、データを正しく管理し、活用できる体制を構築しなければなりません。具体的には複数のシステムに分散しているデータを統合し、マスタデータとして統合管理するのです。そのうえで業務プロセスを最適化します。
業務プロセスの最適化は、従業員へのヒアリングを繰返して業務を定量化し、プロセスを見直しながら効率化を進めていきます。その際に重要なのは業務内容を可視化し、システムで省力化したりリスクを低減したりできるポイントを詳らかにすることです。
特に従業員へのヒアリングから得られる結果は主観的なため、実情と乖離する傾向があります。また、本来の業務プロセスとは異なる順序で処理している業務は、ヒアリングではその実態が得られません。継続的に可視化と改善を実施することで、プロセスの複雑性を抑制し、必要なデータに必要な人がアクセスできる環境を構築することで、効率的にデータ利活用ができる基盤の構築を目指します。
データ利活用を阻害する4つの領域
では、データ基盤の構築を具体的な例で説明しましょう。
上図は、実際にハートコアがデータ基盤の構築を支援したお客様の運用イメージです。
データ基盤は、データ利活用に必要なデータを、各部門、各担当者でデータ加工・利活用運用できる基盤となっています。データ基盤は、リアルタイム性を求める部門の担当者が必要とするデータを、安定的に提供できる基盤であることが重要です。
しかし、データ利活用を実現するには、以下の4つの領域で課題があります。
- 組織・人……人の行動がわからない
- データ……データが揃わない
- ビジネス……効果が予見できない
- 技術・基盤……どれを利用すればよいかわからない
今回は1と2について説明しましょう。
1の組織・人領域の課題とは、端的に言えば「人の行動の壁」です。使い慣れた表計算(Excel)からほかのツールに移行したくない、統計や分析は難しい作業だと決めつけてトライしない、データがなくてもこれまでの業務に支障がないなど、「現状の業務ルーチンを変えたくない」という後ろ向きな理由から、データ活用に消極的になってしまうのです。
これを解決するには、中期経営計画の人事戦略にデータ利活用の評価軸を盛込み、データ活用を企業文化として定着させる努力が必要です。
2のデータの課題とは、分析のために必要なデータが手元に揃わず、分析ができない状態を指します。こうした事態が発生してしまう背景には、「データのサイロ化」が挙げられます。
「データのサイロ化」とは、システムが部署ごとに分断されてしまい、データが連携されていない状態を指します。
多くの日本企業は縦割りの組織構成で、各部署を機能的に動かせるような体制を構築しています。縦割組織には単一機能として成果を出しやすいというメリットがある反面、それぞれの事業部で導入しているシステムやアプリケーション、データの形式が異なるため、データの連携がとれないというデメリットがあります。
その結果、データが有効活用されず、他部署とのデータ連携で生み出されるはずの洞察や新たな知見が得られなくなってしまうのです。ハートコアではこうした問題を「データ取得問題(Collection)」「データ提供問題(Provision)」「データ利用問題(Use)」としてそれぞれの頭文字を取り、「データ活用のCPU問題」と命名しました。
そして、この問題の根幹にあるのが、「経営層の無理解」なのです。
では、なぜ経営層はデータ活用のCPU問題に鈍感なのでしょうか。
以下の表はデータ基盤がない場合とある場合の比較です。意思決定プロセスでは、データ基盤の有無が意思決定の時間に大きく影響していることがわかります。データ基盤がなければ関係部署からデータを収集するだけで多くの時間を割く必要があります。この時間が大きなビジネスチャンスを逃しているということに、経営層は気がつかないのです。
では、経営層にデータ基盤の重要性を理解してもらうにはどのような点に留意すべきでしょうか。次回は、「データ基盤の構築は『正のスパイラル』を起こす」ことを解説するとともに、実際のデータ基盤構築のアプローチを紹介しましょう。