デジタルツインとは何?-「プロセスマイニング」とも密接な関係のあるデジタルツインを解説。
すでに欧米ではよく知られた言葉、「デジタルツイン」。日本でも最近、この言葉を耳にするようになってきました。本記事は、デジタルツインをわかりやすく解説します。
Gartnerが発表した「2019年の戦略的テクノロジー・トレンドのトップ10」(https://www.gartner.co.jp/press/pdf/pr20181031-01.pdf)において、企業や組織が調査するべき最先端の戦略的テクノロジーの1つとして紹介されているのが、「デジタル・ツイン(Digital Twin)」です。
「デジタルツイン」は、ビジネスの文脈では、「Digital Twins of an Organization」のことです。頭文字を取って「DTO」と呼ばれています。直訳すると、「組織のデジタルな双子」となりますが、ちょっとわけがわかりませんね…
そこで、まずは簡潔に説明します。
私たちが働く組織(企業含む)では、基本的にオフィスに出勤し、様々な部署で様々な人がそれぞれの役割・任務・責任に従い、協働しながら多様な業務を遂行しています。
こうした人々が働く現場は、もともと「アナログ」なものでした。コミュニケーションは基本、リアルな会話によって行われ、業務も紙ベースでのやり取りが大半でしたね。ところが、デジタルトランスフォーメーション、要するに「デジタル化」が進む近年、多くの業務はITシステム、アプリケーション上で行われるようになってきました。
全体的なペーパーレス化はまだまだそれほど進んではいないものの、たとえば、会議の資料は事前に出席者にパーワーポイントやワードファイルを配布、議事録は直接PC打ち込んで後日メールで共有するといったスタイルが一般的になりつつあります。
このように、デジタル化が進んだ組織では、人々の業務内容がそっくりそのまま何らかのデジタルデータとして記録されるようになっています。「デジタルフットプリント(デジタルな足跡)」と言いますが、私たちの日々の活動内容の足跡がデータ化され、蓄積されているのです。
プロセスマイニングは、上記のようなITシステムやアプリケーションの操作を記録したトランザクションデータ=イベントログデータを分析することで、目に見えなかった業務プロセスの流れや、誰がどの業務を担当しているか、また誰と誰が協働しているかをビジュアルに可視化します。
プロセスマイニングで可視化された組織の業務のあり方、人と業務との関係、また業務を通じた人と人との関係がほぼリアルタイムに把握できる「図」や「表」がまさに「デジタルツイン」です。現場で行われているアナログな仕事が、デジタルデータから生まれた「ビジュアルな双子の片割れ=デジタルツイン」をみれば、問題点を容易に発見でき、改善施策を立案し、すぐさまアナログな現場に展開できる。
デジタルツインが、企業のデジタルトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たすと考えられるのは組織のデジタル的可視化にあるのです。
では、ここからはもう少し詳しく説明しておきましょう。
「デジタル・ツイン」とは、固い定義では、現実世界のデータを用いて、デジタル空間に忠実に再現された、動的な仮想モデルのことです。
もともと「デジタル・ツイン」は、IoT(モノのインターネット)の普及とAR/VR(拡張/仮想現実)技術の発展により注目され始めた概念ですが、一般的なモデルやシミュレーションとはどのように異なるのでしょうか?
前述したように、「デジタル・ツイン」とは、現実世界に存在するモノをデジタル空間に忠実に再現した、動的な仮想モデルのことを示します。もちろん、現実世界のデータを用いて、デジタル空間で再現・シミュレーションするという概念は新しいものではありません。
しかし、「デジタル・ツイン」が単なるシミュレーションと異なる点は、現実世界での変化をリアルタイムでデジタル空間に再現でき、互いに連動している点にあります。
従来、デジタル空間に現実世界のモノを複製する場合、人の手によってデータを出入力する必要がありました。現実世界でなんからの変化があった場合には、当然データも変化しますが、人の手の介入が必須であったため、時間の経過とともに現実世界のモノとデジタル空間のモデルとは乖離していくものでした。
しかし、IoTの普及により、現実世界のデータがリアルタイムで自動的に収集され、ネットワークを通じて即座にデジタル空間に反映されることにより、現実世界のモノとデジタル空間のモデルとの同一性を保ち続けることができるようになりました。
この特性を指して、「デジタル・ツイン」は現実世界の”動的な”仮想モデルであると言われるのです。
また、構築された「デジタル・ツイン」を分析し、潜在的な問題を発見した場合には、ネットワークを介した遠隔操作によって、現実世界のモノを制御したり、または、問題が起きる前に作業を停止させたりすることが可能です。
こうしたデジタル空間から現実世界へのフィードバックが可能な点も「デジタル・ツイン」の特徴でしょう。
取得できるデータによっては、「デジタル・ツイン」では、モノ単体の複製だけでなく、生産工程やモノの動作環境、運用まで含めた一連のプロセスをデジタル空間に複製します。
すでに、ゼネラル・エレクトリック(GE)社では、「デジタル・ツイン」を構築することによって、風力発電所内のひとつひとつの発電機が、最も効率的に機能するようタービンを個別にカスタマイズしたり、下水処理場の廃水処理プロセスの効率化によって大幅なコスト削減を実現しようとしたりと、様々な取り組みを行なっています。
参考URL:https://gereports.jp/digital-wind-farm/
https://gereports.jp/sewage-treatment-plant-data/
このように、モノづくりの現場では、「デジタル・ツイン」の構築によって、製品の設計・開発段階でのシミュレーションだけでなく、生産工程効率化のための分析、出荷後のモニタリング、問題が発見された場合のトラブルシューティングまでもがデジタル空間で管理できる体制が整えられつつあります。
究極的には、「デジタル・ツイン」は、必要なデータが存在する限り、現実世界の事象を丸ごとデジタル空間に複製可能であると言えるでしょう。
そして、企業や組織(を構成する人、システム、環境、資産、運用形態、業務プロセスなど)をデジタル上に複製したものが、「Digital Twin of an Organization(DTO)」です。
DTOを構築することで、現実世界の業務に差し障ることなく、ビジネスモデルのシミュレーション(ROI検証)を行い、その結果をもとに最低限のリスクでの企業運営を可能にしたり、業務プロセスの最大限の効率化が実現可能になったりと、企業運営のコスト削減や業務効率の向上が期待されています。