「組織の壁」「思考の壁」を乗り越え、グロースハックを成功へと導く
――HeartCoreDAY2018セッション概要:ネットイヤーグループ
『DMP、MAを活用したカスタマーサクセス ~1を5にするグロースハックの重要性~』
2018年11月、ハートコアは、多様なセッションを通じてビジネス・マーケティングの未来を見通し、備えを促すという趣旨のもと、HeartCoreDAY2018を開催しました。
HeartCoreDAY2018においてご提供した多様なセッションの中から、当記事では、ネットイヤーグループ代表取締役社長 兼 CEO 石黒不二代氏の講演の概要をご紹介します。
MA/DMP活用のカギ
近年、新しいマーケティングを実現するプラットフォームであるMA(マーケティングオートメーション)やDMP(データマネジメントプラットフォーム)を導入する企業が急激に増えています。MA/DMP市場は成長を続けており、今後600億円規模に成長するとの予測もあるなか、マーケティングを巡る大きな変化は3つあります。
第1は、マスマーケティングから1to1マーケティングへのシフトです。
マスマーケティングでは、顧客に対して同じモノを、同じメッセージで、同じメディアを使って訴求するアプローチ方法が一般的でした。
1to1マーケティングは、顧客ごとに個別のマーケティングを行うという考え方で、マスマーケティングの対義にあたります。一人ひとり異なる関心を持つ顧客に対し、商品・サービスに関心を持つ瞬間(マイクロモーメント)を的確に捉え、適切なオファーを行うことで、購買機会を最大化します。
第2は、マルチチャネルからオムニチャネルへのシフトです。
マルチチャネルは、店舗やWebサイトなどのチャネルごとに個別のマーケティング施策を行うことを指します。チャネル中心の施策であるゆえ、顧客体験はチャネルごとに分断されていました。
一方、オムニチャネルは、店舗やWebサイトなどのチャネル間を横断し、一貫したマーケティング施策を行うものです。あらゆる販売チャネルが統合され、顧客中心のプランニングによりネットとリアルが融合したシームレスな購入体験の提供が可能となります。そのため、ここでも購買機会の最大化を図ることができます。
第3は、勘と経験にもとづいたマーケティングからデータドリブンマーケティングへのシフトです。
従来型のマーケターの勘と経験に依存するマーケティングでは、施策の成否を評価することが難しく、施策にどうフィードバックすべきかの意思決定ができません。
それに対して、データドリブンマーケティングは、データによる統計的根拠を加えたもので、マーケターの勘と経験に依存しないため、施策の成否を評価することができ、ROIが明確化されるためにフィードバックの意思決定が可能となります。
したがって、高精度で高速なPDCAのサイクルを回すことができます。本日はMAとDMPによってこの点をどのように円滑に進めていけるかをお話しします。
PDCAを阻む2つの壁
MAとDMPを基盤としたマーケティングは図1のように構成され、クロスチャネルでの一貫した1to1の顧客体験を提供するものです。統合されたコンテンツ管理とデータ分析環境で、データドリブンマーケティングの加速が期待できます。
しかし、MAやDMPを導入してはみたものの、それが使えない、機能しないことから、PDCAが進まないというケースを多く見てきました。そこには、「組織の壁」と「思考の壁」という、2つの阻害要因があると考えています。
「組織の壁」に阻害されているケースは、PDCAに必須である組織間の協業ができず、分断されている状態です。特に、MA/DMPのユーザーであるマーケティング部門と、その基盤構築を行うIT部門間で連携できていない場合が多いようです。
例えば、MA/DMPを作るとき、マーケティング部門が「なぜこの施策が重要か」ということを明確にしてIT部門に伝えなかったために、IT部門は「他のタスクが山ほどある中で、なぜこれを優先させなくてはならないのか」という疑問を持つ、というケースがよくあります。また、IT部門が自らの理解にもとづいて作ったDMPは、エンジニアのスキルがないマーケティング部門の人間には使えない、という結果に陥ってしまうこともあります。
「思考の壁」は、ビジネスにおける意思決定者と施策実行者の、思考や判断基準の相違を意味します。マーケティングを成功させるためには、双方の思考を取り入れた顧客体験デザインを行うことが重要です。
「組織の壁」を越える
MA/DMPを中心とした1to1マーケティングは、まさにグロースハックフェーズなのですが、MA/DMPは、Webに比べてステークホルダーが多い上、導入直後から分業状態になっていて、改善案の意思決定が進まない状態に陥りがちです。
とりわけ大企業では、商品やサービスごとに組織が分断され、それぞれに利害が異なることも多く、組織間を共通言語でとりまとめにくかったりします。よくある「組織の壁」の様相として、IT部門はビジネス的な重要ポイントがよく把握できない、そしてマーケティング部門は技術的な困難さやリスクについてよくわからないために、お互いが理解し合えず、PDCAの促進につながらないという問題が発生します。
それらを克服するためには、組織間の利害や違いを把握して、両者が納得のいく判断材料を提供し、意思決定をサポートすることが有効です(図2)。
「思考の壁」を越える
ビジネスレイヤーの判断は、しっかりとファクトやデータによって行われることがすでに定着しています。しかし、マーケティング実務におけるカスタマージャーニーの設計やUXデザインになると、先にお話ししたようにデータドリブン思考の壁があり、まだまだ担当者の属人的な知識や経験、発想を主体に進められています。そのため、施策の成否を見極めた上での適切な改善が提案しにくくなり、PDCAの促進が滞ってしまいます。
これを克服するためには、DMPに蓄積されたデータを活用し、ファクトとデータにもとづいたUXデザインを行い、PDCAを回していくことでデータドリブン思考を醸成するとともに、UXデザインフレームワークを定着化していくことが望まれます。
1を5にするグロースハック
商品やサービスのマーケティングは、3つのフェーズに分けられ、PDCA促進に求められる要素は、現在どのフェーズにあるかによって異なります。
最初のフェーズは、モノやサービスを作り出すイノベーションにあたる部分で、0を1にする段階です。
これに商品やサービスをマーケティングする仕組みを構築するのですが、この仕組みを1から5まで引き上げるべくグロースハックするのが2つ目のフェーズです。これこそが、DMPやMAの構築の仕方にあたります。
5から9に少しずつ引き上げていくのがカイゼンと呼ばれる3つ目のフェーズで、小規模なトライ&エラーを積み重ねていきます。これは、DMPやMAの運用にあたります。
日本企業はカイゼンが得意で、グロースハックのところが弱い、という特徴があると言われています。DMPやMAをいかに現場が使いやすく、カイゼンがしやすく構築していくかが、成長の源泉となります。
カスタマージャーニー分析
ネットイヤーグループでは、担当者や専門家が集まってワークショップスタイルで作るカスタマージャーニーマップを一歩進めて、DMPのデータを使ったファクトベースの、より定量的、ビジネス思考的かつ客観的なカスタマージャーニー分析を提案したいと思います(図3)。
「カスタマージャーニー分析」は、顧客の行動データをもとに、UX(ユーザーエクスペリエンス)と顧客データ分析の両アプローチを行き来しながら、顧客の典型的な購買行動パターンを理解し、可視化するフレームワークです。これにより、ファクトとデータにもとづくカスタマージャーニーを描くことができ、PDCAが可能な実行性の高いマーケティング最適化プラン・サービス改善プランの策定を行うことができます。
このカスタマージャーニー分析を使うようになると、認知、興味、比較検討、購買、購買後といった段階をカスタマーがどのようにたどるか、セグメントごとの典型ユーザーはどのようなカスタマーなのかを、行動データにもとづいて明らかにすることができます。
上記の認知・行動の各段階でカスタマージャーニーマップと異なる視点が得られれば、そこから導き出される施策も変わってくるのです。施策の効果も、データで確認して成否が明らかになれば、次のアクションを適宜修正することもより客観的にできるようになり、PDCAサイクルが促進されるようになります。
このように、MAやDMPを活用してPDCAサイクルを回していくために、グロースハックのフェーズではデータドリブン思考が重要となるのです。
講演者プロフィール
ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 石黒不二代氏
名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBA取得。ブラザー工業にて海外向けマーケティング、スワロフスキー・ジャパンにて新規事業担当のマネージャーを務めた後、シリコンバレーでハイテク系コンサルティング会社を設立。YahooやNetscape, Sony, Panasonicなどを顧客とし日米間のアライアンスや技術移転等に従事。1999年にネットイヤーグループのMBOに参画し、2000年より現職。 現在、内閣官房 「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」 本部員、経済産業省「産業構造審議会」の委員などを務める。その他、内閣府「選択する未来」委員会、外務省「日米経済研究会2016」など多数の公職を歴任。